第2章
白碁石編

シン・ハマグリ碁石 ~メキシコ産ハマグリ碁石~

(1)新たなハマグリ産地を求めて

日向産のハマグリ貝の枯渇が表面化し代替原料を模索する動きが加速する中、ある商社が世界に1か所だけ碁石の原料として利用可能なハマグリ貝の産地を見つけました。その産地はメキシコ西部に位置する、南北約1,000㎞に伸びるカルフォルニア半島の一角にあり、海岸線には打ちあげられた白いハマグリ貝で浜一面が埋め尽くされた白い海岸線の景色が広がっていました。そのメキシコ産ハマグリ貝は直径が日向産ハマグリの約2倍、厚みが約1.5倍のものもあり、これほど大きく白く厚みのあるハマグリ貝が採れる場所は他にはありません。碁石原料となるメキシコ産ハマグリ貝は、日向産ハマグリ貝と同じく独自の自然環境がこの地だけに奇跡的にもたらした希少な資源なのです。
メキシコ産ハマグリ貝が新しいハマグリ碁石原料として見出された初期の頃は貝殻を採取し貝殻のまま日本に輸出していましたが、メキシコの現地で貝殻のくり抜きをする製造会社が現れると円柱状にくり抜かれた粒の状態で日本へ輸出されるようになりました。また、碁石の機械加工技術が進み、日向の碁石製造所がこれまで手加工で行ってきた最終仕上げ加工も機械で行うようになります。すると碁石が大量生産できるようになり日向産ハマグリ碁石よりもリーズナブルな価格で流通したため、ハマグリ碁石の主流は「シン・ハマグリ碁石」であるメキシコ産ハマグリ碁石に置き換わっていきます。厚みにおいても日向産ハマグリ貝から製造できる碁石は40号(11.3㎜)が最厚でしたが、メキシコ産ハマグリ貝からは50号(14.3㎜)の厚みのものまで製造できるようになり、幅広い顧客ニーズにも対応できる碁石として世界中に流通するようになりました。

(2)日向特製ハマグリ碁石の誕生と苦境

日向で製造されたメキシコ産ハマグリ碁石は、「日向特製ハマグリ碁石(日向市で製造された碁石)」という統一名称の箱に入れ、全国にある碁盤店を通じて全国に流通していきました。1990年前後までは各都道府県には1つ以上の碁盤店があり、碁盤の製造販売や修理を主な生業としながらハマグリ碁石をはじめとする囲碁関連用品の販売もしていました。一方で、ハマグリ碁石業者の販売方法は全国の碁盤店への卸販売が中心だったため、碁石業者が碁石の箱にメーカー名を入れることはタブーとされていた時代でもありました。1990年代のバブル経済の崩壊以降、ハマグリ碁石の需給バランスは大きく崩れ、全国の碁盤店の碁石の販売力が弱まり、行き場を失った日向のハマグリ碁石業者は背に腹は代えられないと碁石組合で決めた碁石の標準小売価格や卸価格を下回る価格で流通をさせていくようになります。さらに業界標準よりも品質の低い粗悪品を流通させる業者の存在や業界が需給バランスの読み違えにより、自ら引き起こした価格低下の悪循環によって日向特製ハマグリ碁石はこれまでの信用を失い、日向の碁石製造所の淘汰がはじまりました。
さらに2000年以降にメキシコ産ハマグリ貝の輸入が止まり、原料供給が数年間止まったことがありました。理由として、現地で環境問題に対する配慮や社会保障制度が大きく変わり、ハマグリ貝の採取や輸出に規制がかかってきたこと、ハマグリ貝という「化石」の輸出は認めないなどの理由で通関が切れない状況等が発生したのです。貝殻採取の許可取得費用や製造コストが高騰し出荷量も最盛期の10分の1以下となり、ハマグリ碁石の原料価格はそれまでの3倍以上に跳ね上がりました。ようやく輸出が再開した2010年以降、高騰したハマグリ碁石原料をコンテナ単位で購入する碁石業者は当店のみとなりました。また、2022年現在宮崎県日向市で碁石製造・販売をしている会社は、黒木碁石店を含む3社のみです。
第3章 黒碁石編
至高の“黒”碁石 ~三重県熊野市産 那智黒石~
囲碁ものがたり
白碁石編
奇跡のハマグリ碁石 - 日向産ハマグリ碁石 -
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